SMARTCAMP Engineer Blog

スマートキャンプ株式会社(SMARTCAMP Co., Ltd.)のエンジニアブログです。業務で取り入れた新しい技術や試行錯誤を知見として共有していきます。

準備いらずの読書会 - アクティブ・ブック・ダイアローグ®︎をリモートワーク向けにカスタマイズしてみた話

はじめに

皆さんこんにちは、米元です。

ここ半年ほど生成AI等を用いた社内業務の生産性向上プロジェクトに取り組んでいますが、そのプロジェクトチームで最近試した勉強会がとてもよかったので紹介したいと思います。

想定読者

  • リモートワークでの勉強会の手法を知りたい人
  • 勉強会の準備が大変で続けられないと悩んでいる人
  • 積読を消化したい人
  • いろんな人の観点を取り入れて効率良く学びたい人

背景

現在私が関わっているプロジェクトは以下の図のようにメンバーが東京と京都という複数の拠点に分かれています。

チーム体制

特に京都開発拠点の出社日(現在は週2日程度)は私は東京のオフィスまたは自宅からリモートで京都のオフィスメンバーとやりとりを行なうという体制です。

そのため普段のコミュニケーションはリモートを前提としており、ツールとしてはSlack・Google Meet・Figma等を利用しています。

この体制で業務を遂行することに基本的には大きな問題は無いものの、チーム作りにおいて以下のような課題を感じていました。

  • リモートメンバーとオフィスメンバー間の情報共有が不十分になりがち
  • オンラインでのコミュニケーションでは非言語的なニュアンスが伝わりにくい
  • コミュニケーションの頻度や質に差が出る可能性がある

特に私自身はチームをマネジメントする立場のため、1人だけリモートの状態で他のメンバーに対してプロジェクトの方針や進め方・それらの軸となる考え方を細かく共有したり、メンバーの考えていることをキャッチアップすることが難しく感じていました。

その対策として、勉強会を実施して知識の共有やプロジェクトの進め方についての認識を擦り合わせることにしました。

ただ勉強会と言っても座学形式でリモートで一方的に話すだけだと集中しづらいし、頭に入りづらいです。また、勉強会によって共通認識が作れたかを把握することも難しいです。

また、(これはハイブリッド環境かどうかは関係ないですが)勉強会の準備が大変過ぎると開催自体が億劫になり続けられないなどの問題がありました。

何か良い進め方が無いかいくつか勉強会の事例等を調べていくうちに、「アクティブ・ブック・ダイアローグ®(以下ABD)」というものの存在を知り、今の体制向けにカスタマイズして運用してみました。

ABDとは

ABDとは複数人で行なうワークショップ形式の読書手法です。

以下は開発者の竹ノ内壮太郎さんによる紹介の引用です。

アクティブ・ブック・ダイアローグ®は、読書が苦手な人も、本が大好きな人も、短時間で読みたい本を読むことができる全く新しい読書手法です。

1冊の本を分担して読んでまとめる、発表・共有化する、気づきを深める対話をするというプロセスを通して、著者の伝えようとすることを深く理解でき、能動的な気づきや学びが得られます。

またグループでの読書と対話によって、一人一人の能動的な読書体験を掛け合わせることで学びはさらに深まり、新たな関係性が育まれてくる可能性も広がります。

引用元: https://www.abd-abd.com/

進め方

おおまかな流れは以下のとおりです。

  • 1冊の本を複数人で分担して読む
  • それぞれが読んだパートを要約する
  • 要約した内容を順番にプレゼンする
  • 感想や疑問点について話し合う
  • 振り返りする

これによって1人で読書をするよりも短い時間で内容を把握でき、また参加者それぞれの視点や考えから多くの気づきが得られます。

メリット

また、同サイトにはABDの8つのメリットも紹介されています。

  1. 短時間で読書が可能
  2. サマリーが残る
  3. 記憶の定着率の高さ
  4. 深い気づきと創発
  5. 個人の多面的成長
  6. 共通言語が生まれる
  7. コミュニティ作り
  8. 何より楽しい!

ただABD公式のマニュアル(191017ABDマニュアルver1.5: 公式サイトからダウンロードできます)に記載されている標準的な進め方はオフライン前提で、かつ時間もチェックイン・チェックアウトを含めると150分程度とそれなりのボリュームです。

以下は公式マニュアルに記載されているアジェンダです。

1.オープニング (20分~)

1-1.チェックイン(1分×人数)

1-2.オリエンテーション (10分)

2.メイン (120 分~)

2-1.サマライズ(30~60分)

2-2.リレー・プレゼン (2~3分 × 人数)

2-3.ダイアローグ (30~60分)

3.エンディング(10分~)

3-1.チェックアウト(1分×人数)

一方でリモート(私)とオフィス組(京都メンバー)とのハイブリッドな環境であること・業務時間内に実施することを考慮するとそのまま現在のプロジェクトに適用するのは難しそうです。

公式マニュアルには以下のような記載もあるため、自分達に合った進め方に変えてみることにしました。

※上記は、スタンダードな時間と進め方を記入しています。時間は本の内容や人数規模によって大きく 変わります。また、現在でも、様々な工夫やパターンが誕生しています。ぜひ皆さんもこの型にこだわらず、 工夫してみてください。そして良いものが生まれたら、ぜひ教えてください。

実際の進め方

前提として拠点が東京と京都に分かれているためリモートで実施しました。

ツールはNotionとGoogle Meetを利用し、勉強会のアウトプットはNotionに集約しています。

事前準備としてはファシリテーターがNotionに勉強会のページを作成し、目的・進め方・対象書籍または対象資料・感想欄などを記載しておきます(テンプレート化すると良さそうです)。

また、少しでも多く読書や議論のための時間を確保するため、参加者の担当ページも「XXさんはP10〜P30まで」など具体的に決めておきます。

参加者は事前準備は不要としました。

おおまかな流れは以下のとおりです。

1. 目的の共有、進め方の説明 5分
2. 読み込みタイム 15分
3. リレー・プレゼン 25分(5分目安×5人)
4. ダイアローグ 15分

私達の場合は普段から同じチームで働いているということもあり、チェックイン・チェックアウトは省略しました。プレゼンやダイアローグを活性化したい場合や別チームのメンバーやいろんな会社の参加者がいる場合など参加者の属性やチームの状況に応じて変えた方がよいとは思います。

全体の時間についても検討しましたが、リモートでの長時間の勉強会は集中力が続かずダレてしまう可能性もあるので、60分で実施してみることにしました。

ただ60分で1つのコンテンツを読み切るのは難しいことが多いため、その場合は2〜3回に分けて実施しています。参加人数やコンテンツの内容にもよるかもしれませんが、リモートの場合は1回の時間は長くても90分くらいが限度かなという印象です。

また、時間が限られていることや各自が担当するページ数を少なめに設定したことから、読んだ内容の要約は省略し直接ページ内容を画面共有しながら説明する形式を採用しました。

事前に準備したアジェンダ

もう一つ大きく変えたポイントとして、発表者以外のメンバーはプレゼンを聞きながら気になった部分や共感したポイントについてNotionにメモを取り、最後のダイアローグの時間でそのメモに対してさらに各自がコメント(Notionのコメント機能)をする形式にしました。

疑問点や共感ポイントとそれらに対するコメント

効果

良かった点は以下のとおりです。

  • 気になっていたコンテンツを短時間で読み込めた
  • あらためて他の人に説明することで理解が深まった
  • 他の人の意見や考えを聞くことで新たな気づきが得られた
  • グループで同じものを読み、議論することで共通認識・共通言語ができた
  • 他の人の説明を聞きながら自分の感想や疑問をコメントする形式だったので集中して聞くことができた

他のメンバーからもポジティブな意見が多く、やってみて良かったなと思っています。

改善点があるとすると、参加者がオンラインでのワークショップのような高い熱量にはならなかったという点です。コミュニティ作りを目的とする場合はもう少し全体の時間を長くとり、チェックイン・チェックアウトも十分に行った方が良いかもしれません。

参考: 実際に使った資料

実はここまで紹介したカスタマイズ版ABDでは書籍は使用しておらず、Web上に公開されているスライドなどの資料を使用しました。実際に使用させていただいた資料の一部を紹介します。

speakerdeck.com

株式会社コパイロツトさんが公開しているスライド。

リモートでの会議やプロジェクトの進め方について、共通認識を作るために使用しました。有料書籍として販売できそうな質とボリュームです。リモートワークをしているすべての人に読んでもらいたいくらいの神資料だと思います。

speakerdeck.com

東京大学の馬田さんが公開しているスライド。

仮説検証の進め方について、チーム内での知識や考え方を揃えるために使用しました。

こちらはご存じの方も多いかと思いますが書籍も発行されており、より理解を深めるためにもあらためて書籍版で実施してみたいと思っています。

まとめ

以上、ABDを自分達の環境に合わせてカスタマイズした内容の紹介でした。

同じような課題に悩む皆さんの参考に少しでもなれたら幸いです。

今回は自チームのメンバーのみでの実施でしたが、業務で関わりのある他部門のメンバーと一緒に行なうことで事業部内での共通認識や共通言語を作ったり、社内での事業横断的なコミュニティ作りにも活用できそうです。

そのうち公式マニュアルに沿った形(オフライン)でのABDもやってみたいなと思いますので、社内外問わずこの記事を読んでABDに興味を持たれた方はぜひお声がけください。